JISLaD The Japanese Information System of Land Deformation
GPS地盤変動情報 第1号
2016 / 5 / 31
この度の「平成28年熊本地震」におきまして、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災されました皆様に心よりお見舞い申し上げます。被災された皆様の、一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。
1. 熊本地震の概要
  2016年4月14日午後9時26分に熊本でマグニチュード6.5の地震が発生し、震度7を記録した。その後も地震が続き、2日後の 4月16日午前1時25分には、マグニチュード7.3の地震が発生した。16日に発生した地震は14日の地震と比べ、約16倍のエネルギーを持つ大規模な地震であったため、14日の地震が前震、16日は本震とされた。
・4月14日(木) PM 9:26   最大最大前震 (マグニチュード6.5)
・4月16日(土) AM 1:25  本震 (マグニチュード7.3)
・4月16日~  余震
熊本地震は、内陸型の地震として最大規模のものとなった。また、地震を起こすきっかけとなった布田川断層帯・日奈久断層帯は、将来マグニチュード7以上の地震を引き起こす可能性があると指摘されていた(地震調査研究推進本部による)。今回、地盤情報システムにより、最大前震と本震の地殻変動を算出した。
2. 地震時地殻変動
 図.1に、最大前震の地殻変動を矢印で示す(水平方向-黒、上下方向-赤・青)。図の矢印の長さが各観測点(GPS衛星の連続観測点)の変動量を、矢印の向きは動いた方向を表す。茶色の線は、日奈久断層の動いた箇所(国土地理院の暫定モデルより)を表している。断層の西側では、北北東及び北北西方向の動き、断層の東側では西もしくは南方向の変動がみられた。
本震の水平・上下方向の変動を図.2に示す。茶色の線が布田川断層の動いた箇所(暫定モデルより)を表している。また、最大前震に比べ本震の変動が非常に大きい為、矢印のスケールは異なる。断層の南側では、西もしくは南方向の変動、断層の北側では東及び北方向の変動がみられた。ただし、JOHNANの観測点のみ逆方向を示した。
最大前震・本震とも、各観測点の変動傾向は、おおむね横ずれ断層モデルにより説明できる動きを示した。
図1:最大前震時の水平上下成分の変位
図1:最大前震時の水平上下成分の変位
図2:本震時の水平上下成分の変位
図2:本震時の水平上下成分の変位
3. 最大前震と本震の面積ひずみの分布
  面積ひずみという指標を用いて、地震によって地上の土地の面積がどう増減したかを計算した。図.3では最大前震、図.4が本震の面積ひずみの分布を表している。赤は面積が膨張、青は、収縮を示す。最大前震に比べ本震のひずみが非常に大きい為、色のスケールは異なる。
最大前震時は宇土半島付近で膨張、熊本北部・中部で収縮がみられた。本震時は、阿蘇地域・熊本市沿岸部で膨張、菊池市・益城町・西原村付近で収縮がみられた。
図3:最大前震時の面積ひずみ分布
図3:最大前震時の面積ひずみ分布
 
図4:本震時の面積ひずみ分布
図4:本震時の面積ひずみ分布
本震と最大前震で図のようなひずみ分布が現れる理由を模式図に示す。断層が模式図のように矢印方向に横ずれして変動したとすると、左上の領域は断層につられ、押し出すような動きになるので、面積が膨張する。逆に右上の領域は押される形になるので、面積が収縮する。左下、右下も同様の理由で膨張、収縮し、膨張・収縮が交互に出るひずみ分布となる。
 最大前震の断層の北西側のひずみ分布は、模式図に示す横ずれ断層型の分布とほぼ一致した。南西側については、あまりよく一致しているとはいえないかもしれない。しかし、衛星を利用した別の地殻変動観測手法の干渉合成開口レーダー(InSAR)という観測の結果でも南西側には横ずれ型に典型的なひずみ分布は見られていないようなので、今回の解析は南西側についても、自然現象をよく表しているのかもしれない。
 一方、本震ではきれいな横ずれ断層型のひずみ分布を示していないようにも見える。断層の北西端近くの阿蘇火山に近いところに大きな目玉がみえる。この目玉は、上記の干渉合成開口レーダーでもはっきりと現れている。本震の断層を北西へ延長した阿蘇火山の外輪山のなかでは、横ずれ型ではなく正断層型という地殻が広がるような地震が起こったと考えられていて、大きく膨張した場所ともほぼ一致している。
また、本震の断層の中央部の南側には圧縮の目玉があるが、本震に縦ずれ成分があると、このような目玉が現れる。本震の動きが完全な横ずれだけではなかったことを示しているようだ。これらを除くと、本震の断層の北側は、だいたい横ずれ型のひずみ分布とは矛盾していない。
 
模式図
4. 基線長・面積変化
  地盤情報システムは、基線長や面積の変化量がある基準値を超えると、地図上に警報(マーク)を発色して、異常変動を検出する仕組みである。
図5は最大前震、図6は本震の異常変動を示し、凡例のしきい値を超えた箇所が発色している。図5,図6では辺長・面積ともに、複数の箇所でしきい値が超えている。特に、本震では,広範囲に基線長や面積の変化がみられた。ただし、観測点の間隔が広すぎる為,おおまかな地震断層の位置は推定できるが,断層のメカニズムを読み解くことは難しい。

 ただし、最大前震については、断層の北西側で西の方が赤く、東の方が青くなっている。これは、面積ひずみのときと同様に、横ずれ型の地震を示していると考えられる。
また、本震についても、大きくいえば、断層の北側では西の方が赤く、東の方が青くなっている。逆に断層の南側では、東の方が赤く、西の方が青くなっているようである。このように見れば、本震でも横ずれ型の地震の特徴がよく現れている。
 また、最大前震、本震の基線長の変化を表1、表2に示す。
図5:最大前震時の異常基線長・面積変化
図5:最大前震時の異常基線長・面積変化
図6:本震時の異常基線長・面積変化
図6:本震時の異常基線長・面積変化
  凡例
表1:最大前震時の辺長差
表1:最大前震時の辺長差
表2:本震時の辺長差
表2:本震時の辺長差
<開発者のひとりごと>
  気象庁は、役所の職制でいう技官の集まりです。気象庁の技官は、気象学や地震学、火山学、海洋学などの地球科学の最先端に精通していますが、一方で(技術)官僚でもあります。  気象庁のマスコミ等への発表には、そのときどきの最先端の科学の常識と、官僚としての立場との両方の折り合いをつけたものが少なくありません。
  皆さんもよくご存じのように、地震や火山などの地殻活動は、人間の一生から考えれば非常に長い発生間隔を持っています。2011年の東北の大地震は、一般に1200年前の貞観の地震の再来といわれています。今回の熊本の地震を引き起こしたような内陸の活断層の発生間隔は、数百年から数千年周期といわれています。火山の噴火も、規模にもよりますが、数百年から数千年、あるいは数万年に一度という現象です。このような人間活動から見ると非常に長い発生間隔から考えると、例えば10年という時間は一瞬でしかありません。
 火山学の常識として、火山の大噴火のまえに近くで大地震が起こることは、しばしば見られる現象です。実際、人類が知っている歴史である数百年から数千年のあいだにも、大地震と火山の大噴火とが近接して起こっていることがしばしばあります。しかし、このときの「近接して」とは、数日のこともありますが、もしかしたら30年かもしれません。このことは気象庁の職員ももちろんよく知っています。
  今回の熊本地震の破壊域は、阿蘇火山の外輪山の内側にまで及びました。しかも、阿蘇火山の近くの地震活動は、正断層といって、火山噴火を誘発しやすくするものでした。熊本地震の本震のあとで、気象庁は「(阿蘇火山の噴火と)一連の地震との関連性は分からない」という発表をしています。
科学的な常識から考えれば、関連があることはしばしば見られることですが、これは、何百年もあとになって見直してみると、例えば「わずか30年のあいだに」近接して発生していた、という場合もあるのです。このような科学の常識は、気象庁の職員の官僚としての立場としては、なかなか一般の人に正直には言えるものではありません。人間活動と密接に関わり合いを持つ官僚としては、30年後かもしれない、とは言えないのです。
   一方で、今回の地震活動の反対側では、川内原発との関わりも注目されました。気象庁は、原発の安全性に関わるお役所ではないのですが、もし、今回の地震の南西側である日奈久断層帯の南半分が破壊する地震が起こったら、川内原発でもかなりの揺れになるはずで、川内原発の事故を誘発したら、たいへんな事態になります。
もちろん、そのように誘発される大地震が発生するのも、上記と同様にもしかしたら30年後かもしれません。日奈久断層帯の南端まで活動が延びたときに、川内原発の揺れが、原子力規制委員会や九州電力の予測の範囲内で収まるのかどうか、あるいは川内原発がどれほどの揺れにまで耐えられるかは、もちろん気象庁の官僚が関係するところではないのですが、もし惨事が起こったときには、政治的な策謀などで気象庁という役所にまで責任が及ばないとも限りません。
気象庁は、今回の地震活動において、「活動域が今後、南西に広がる可能性については分からない。」と発表しています。このことにわざわざ言及しているのは、役所の存亡に関わったら大変だという予防線だと考えられます。そのうえ、もし30年後にそのような大地震が起こったとしても、そのときにはすでに川内原発は廃炉になっているかもしれないのです。
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