JISLaD The Japanese Information System of Land Deformation
GPS地盤変動情報 第2号
2016 / 7 / 6
下記の画像をクリックすると、PDFファイルをダウンロードできます。
1. 2011年東北地方太平洋沖地震の概要
  2011年3月11日14:46に発生した東北地方太平洋沖地震は、   2011年3月11日14:46に発生した東北地方太平洋沖地震は、マグニチュード9.0という日本の観測史上最大の地震であり、世界で見ても1960年のチリ地震、 2004年のスマトラ島沖地震、1964年のアラスカ地震に次いで4番目の大きさの超巨大地震であった。
 この地震は、海溝型の地震といい、海側の太平洋プレートと陸側の北米プレートの境界の間で起きた地震であり、震源域は当日発生した最大余震も含めると、 岩手県沖から茨城県沖の非常に広範囲にわたっている。この地震によって、大規模な津波も発生し、東日本の太平洋側で大きな被害をもたらし、 さらには福島第一原子力発電所の事故にもつながった。第2回目のメルマガでは、東北地方太平洋沖地震の日本全国の地殻変動を算出する。
 下記の変動を求める際に、地震前の期間として、世界時の3月7日~10日の期間の観測データから用いた座標値を用い、地震後の期間として、 世界時の3月11日05:50(日本時間の3月11日14:50)から12日23:59までの期間の観測データから求めた座標値を用いて、両者の差を地震時の変化としている。 このために、本震の30分後に茨城県沖で発生した最大余震(M7.6)はもちろんのこと、日本時間の12日未明に発生した長野県北部地震(M6.7)による変動も含まれている。
2. 地震時地殻変動
 図1~4に地震時の地殻変動を矢印で示す(水平方向-黒矢印、上下方向-赤・青)。図の矢印の長さが各観測点(GPS衛星のGEONET連続観測点) の変動量を、矢印の向きは動いた方向を表す。震源域から遠く離れていくほど変動量が小さくなっていく為、それぞれの図で変動量のスケール が異なっていることに注意して頂きたい。
 水平方向の変動は、東北地方の太平洋側を中心に東向きの変動を示している。さらには、中国・四国地方の震源から遠く離れた地域でも、 おおむねその傾向がみられる。一方、青森県・北海道など北に行くほど、ほぼ北北東-南南西に延びる震源断層が南東- 南南東方向に位置することになるために、水平変動の方向は南東から南南東方向になっている。中部地方より西の地域も、 震源が東北東に位置することと、震源断層の走向が南北より少し時計回りに振れているために、水平変動は、東北東方向の変動を示している。
 上下方向の変動は、東北・関東地方の太平洋側で明瞭な沈降が見られる。それ以外の地域は、北海道東部を除きほぼ隆起している。
 これらの水平変動と上下変動は、この地震を生じた断層運動が、東日本東海岸沖に北北東-南南西に延びる、傾斜角が10度程度の いわゆる低角断層が、ほぼ横ずれ成分なしに、断層の上側が下側に乗り上げるように滑った(逆断層型の)動きだったと考えるとよく説明できる。
図1:東日本地域の水平上下成分の変位
図1:東日本地域の水平上下成分の変位
図2:北海道の水平上下成分の変位
図2:北海道の水平上下成分の変位
図3:中部・近畿地方の水平上下成分の変位
図3:中部・近畿地方の水平上下成分の変位
図4:西日本地域の水平上下成分の変位
図4:西日本地域の水平上下成分の変位
3. 面積ひずみの分布
 東北地方太平洋沖地震による日本全国のひずみ分布を図5~8に示す。赤いほど地震により面積が膨張した地域、青いほど収縮した地域を示す。 各図の色のスケールは異なっており、同じ色あいでも東日本では西日本より100倍膨張・収縮している。図から日本全国の大部分で膨張が見られることがわかる。 特に東北地方は面積の膨張量が大きく、震源を中心に同心円状に面積の膨張が大きくなる傾向がある。
図5:東日本地域の面積ひずみ分布
図5:東日本地域の面積ひずみ分布
図6:北海道の面積ひずみ分布
図6:北海道の面積ひずみ分布
図7:中部・近畿地方の面積ひずみ分布
図7:中部・近畿地方の面積ひずみ分布
図8:西日本地域の面積ひずみ分布
図8:西日本地域の面積ひずみ分布
 地震時に膨張する理由を下の模式図に示す。地震前は日本に向かって沈み込む太平洋プレートの影響によって、北米プレートも一緒にくっついて沈み込んでおり、陸地が徐々に収縮している。しかし、ある時くっついていた箇所が限界に達し、元に戻ろうとしてプレートがはね上がる(地震)。陸地でも収縮した分、元に戻ろうとして膨張する。
 そのため、震源から同心円状に膨張が大きくなるようなひずみ分布図となったと考えられる。また、日本全国でほぼ膨張していたことから、非常に広範囲で地震の影響がみられることもわかった。
4. 基線長・面積変化
 地盤変動情報システムは、基線長や面積の変化量が任意に設定した値(閾値)を超えると地図上に警報マークを発色させて、異常変動を検出する仕組みである。
 図9~12に日本全国の異常変動図を示す。凡例で示した閾値にすると北海道の渡島半島から長野県にかけて発色した。基線長は東西方向で伸長、南北方向で概ね収縮し、面積は膨張となった。
図9:東日本地域の異常基線長・面積変化
図9:東日本地域の異常基線長・面積変化
図10:北海道の異常基線長・面積変化
図10:北海道の異常基線長・面積変化
図11:中部・近畿地方の異常基線長・面積変化
図11:中部・近畿地方の異常基線長・面積変化
図12:西日本地域の異常基線長・面積変化
図12:西日本地域の異常基線長・面積変化
  凡例
<開発者のひとりごと>
 2011年東北地方太平洋沖地震では、本震発生の2日前にM7.3の 顕著な前震が発生したことが知られている。この前震はM7クラスという大地震であったが、海溝近くの陸地から遠いところで発生したために、ほとんど 被害はなかったが、前震発生当時には東北地方のプレート境界でM9クラスの巨大地震が発生しうるとは、ほとんど考えられていなかったので、M9地震の 発生を予知することはできなかった。
 この地震に限らず、近年国内で大震災と呼びうるような被害を伴った大地震は、すべて顕著な前震を伴っている。2016年熊本地震について顕著な前震 を伴っていることは、高校生でも知っている。
 1995年に神戸市を中心に甚大な被害をもたらした兵庫県南部地震でも、顕著な前震があった。この地震は、神戸市から西宮市に伸びる六甲断層帯と淡 路島北部を縦断する野島断層からなる六甲-淡路断層帯の断層運動による地震である。両者は明石海峡でつながっているが、走向はやや「く」の字に折 れ曲がっている。本震の割れはじめは、明石海峡付近であるが、前日18時28分にやはり明石海峡付近で、M3.3の前震が発生していて、この地震は神戸市 で有感地震であった。この付近には、それまでの長期間ほとんど地震は発生しておらず、当時この地域の地震活動をリアルタイムで観測していた大学の 研究者は、この前震について、「妙な地震が妙な場所で発生した」と首をかしげながら帰宅したとのことである。しかし、この研究者も神戸直下で大地 震が発生する可能性があることはまったく考えなかったから、首をかしげながら帰宅したのであろう。
 兵庫県南部地震が引き起こした神戸・淡路大震災まで、国の地震研究では「地震前兆を検出して地震を予知する」という研究のシナリオを描いていた。 しかし、この兵庫県南部地震をはじめとして、2011年東北地方太平洋沖地震、2016年熊本地震では、いずれも顕著な前震という前兆現象が検出できてい たにもかかわらず、地震の予知はできなかった。これは、前震の発生場所近くで大地震の発生が差し迫っているという予測ができていなかったためである。
 兵庫県南部地震発生当時、大学を除く国の地震研究は、当時の科学技術庁がまとめ役になっていた。地震発生後に、地震の前兆を検出して地震を予知 する、という前兆現象の検出と地震の予知を主眼とした国の研究が見直されて、前兆現象の検出を目指すのではなく、どこでどのような大地震の発生が 差し迫っているのかという予測に研究の主眼を移した。この目的のために、地震調査委員会、科学技術庁(現在の文部科学省)を事務局として発足する ことになった。兵庫県南部地震において、前震という明らかな前兆現象が検出されていたにもかかわらず、地震予知ができなかったのは、予測ができて いなかったからなのは、専門家の研究者や官僚でなくても明らかなことなので、このような政策の変更は当然のことでもある。この政策の変更を主導し たのは、当時科学技術庁長官(国務大臣)だった田中真紀子氏である。
 その後も、大学だけは地震前兆の検出と地震予知を研究に掲げていたが、2011年東北地方太平洋沖地震発生を機に、大学でも地震前兆を検出して地震 予知を目指すという研究を諦め、地震予測へと研究の主眼を切り替えた。
 次回の「開発者のひとりごと」では、地震前兆と地震予知について、民間の取り組みを取り上げる。
ホームページ:  JISLaD
発行:  株式会社日豊