JISLaD The Japanese Information System of Land Deformation
GPS地盤変動情報 第3号
2016 / 8 / 30
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 前号では2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による地殻変動について紹介した。本号では、本震の翌日から現在までにどのような地殻変 発生しているのかを紹介する。この期間を下記の2通りに分けた。

  ・本震の翌日からの1ヶ月間の地殻変動  2011年3月11日~2011年4月10日
  ・1ヶ月後から現在までの5年弱の地殻変動  2011年4月10日~2016年1月1日

 上記の2つの期間に発生した地震の震源を下記に示す。これから紹介する地殻変動には、いくつかの狭い場所で発生したM6以上の大地震による地殻変動 が含まれている。地震の発生場所については、この図を参照されながら各種の変動分布図を見ていただきたい。 (地震分布図の説明)
図1:東日本の地震分布図(2011年3月11日~4月10日)
図1:東日本の地震分布図(2011年3月11日~4月10日)
 
図2:東日本の地震分布図(2011年4月10日~2016年1月1日)
図2:東日本の地震分布図(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
1. 本震後の地殻変動 (水平及び上下成分の変位分布図の説明)
 
 1-1.本震直後~1ヶ月後
 図3~6に本震翌日から1ヶ月間の水平及び上下成分の変位分布図を示す。地域毎にスケールが違っていることに注意していただきたい。
水平方向の変動は、東北地方の太平洋側を中心に東向きの変動を示している。さらには、中国・四国地方などの 震源から遠く離れた地域でも、 おおむねその傾向がみられる。一方、北海道は青森側に引っ張られるように反時 計回りに回転している。中部地方より西の地域も、 震源が東北東に位置することと、震源断層の走向が南北より 少し時計回りに振れているために、水平変動は東北東方向の変動を示している。また、茨城県沖で本震の30分後 に発生した最大余震も含めた本震発生域からは外れているにもかかわらず、房総半島の太平洋岸で比較的大きな 水平変動が見られる。房総半島沖で、本震後にゆっくりとした変動が起こっていたようである。
 上下方向の変動は、東北・関東地方の太平洋沿岸付近は一部隆起し、内陸と岩手県北部では沈降が見られる。
 新潟県との県境に近い長野県北部では、3月12日にM6.7の長野県北部地震が発生している。狭い範囲であるが、 この地震による変動の影響が見られる。富士山直下に近い静岡県東部では、3月15日にM6.4の静岡県東部地震が発生している。やはり狭い範囲であるが、この地震による変動の影響が見られる。
図3:北海道の水平及び上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
図3:北海道の水平及び上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
 
>図4:東日本地域の水平及び上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
図4:東日本地域の水平及び上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
 
図5:中部・近畿地方の水平上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
図5:中部・近畿地方の水平上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
 
図6:西日本地域の水平上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
図6:西日本地域の水平上下成分の変位(2011年3月12日~4月10日)
 
 1-2.1ヶ月後~2016年1月
 図7~10に地震1ヶ月後から2016年1月までの水平及び上下成分の変位分布図を示す。水平方向の変動方向は、 概ね地震後1ヶ月間の変動に一致する。観測期間が違うため、絶対変動量は異なる。また、地域毎にスケールも変えて いるため、注意が必要である。
 宮城県と岩手県の海岸付近では、地震後1ヶ月間より隆起の範囲が広がっている。地震後1ヶ月間とは、変動を起こ している主な原因が異なっているためと考えられる。余効変動と本震での変動との割合は地域によって違うが、隆起に よって 本震による変動 の20%前後の大きさが戻っている勘定になる。2016年になっても隆起変動は収束していないので、 今後の変動の積算によって長期的にはさらに大きな量の隆起になると考えられる。
 福島県の太平洋岸南部の茨城県との県境に近い地域では、2011年4月11日に福島県浜通り地震(M7.1)が発生しており、 この地震による変動が見られる。千葉県の銚子沖ではこの期間に浅い場所で余震が頻発して起きているが、この期間より も地震後1ヶ月間の期間で、銚子付近では周囲より大きな隆起が目立つ。
図7:北海道の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
図7:北海道の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
>図8:東日本地域の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
図8:東日本地域の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
図9:中部・近畿地方の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
図9:中部・近畿地方の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
図10:西日本地域の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
図10:西日本地域の水平上下成分の変位(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
 
2. 地震後の面積ひずみ分布 (面積ひずみ分布図の説明)
 
 2-1.地震直後~1ヶ月後
 東北地方太平洋沖地震後の2011年3月12日~4月10日のひずみ分布を図11~13に示す。地域毎にスケールが異なって いることに注意していただきたい。東北地方太平洋沖地震によって誘発されたとされる3月12日未明の長野県北部 地震(M6.7)と3月15日夜の静岡県東部地震によるひずみ分布が見られる。また、福島県南部から茨城県北部と千葉県 の銚子付近では、大きな膨張が見られる。この地域の地震分布図(図1)を見てみると、浅い部分で余震が頻発して 起きていることが分かる。膨張した付近で発生した地震は正断層型の地震といい、地殻が引っ張られるような力に よって発生した地震である。そのことからこの付近では引っ張られる力が強く、大きな膨張していると考えらえる。 岩手・宮城の沿岸部を除き、東北地方を中心として概ね膨張を示している。このような変動は、地震の余効変動に よるものと考えられる。
図11:東日本地域のひずみ分布(2011年3月12日~4月10日)
図11:東日本地域のひずみ分布(2011年3月12日~4月10日)
 
>図12:中部・近畿地方のひずみ分布(2011年3月12日~4月10日)
図12:中部・近畿地方のひずみ分布(2011年3月12日~4月10日)
 
図13:北海道のひずみ分布(2011年3月12日~4月10日)
図13:北海道のひずみ分布(2011年3月12日~4月10日)
 
 2-2.1ヶ月後~2016年1月
 2011年4月10日~2016年1月1日のひずみ分布図を図14~16に示す。2011年4月11日の福島県浜通り地震と 2014年11月22日夜に発生した長野県神城断層地震のひずみ分布が見られる。福島県浜通り地震は正断層と いう地殻が引っ張れて発生した地震なので、地震直後のひずみ分布と同様に大きな膨張が見られている。 東北地方から関東地方北部では、中央部の脊梁山岳地域を除いて膨張している地域多く、地震の余効変動 だと考えられる。中部・関西地方、北海道では地震発生直後に比べ収縮の地殻変動が顕著にみられるよう になっている。
図14:東日本地域のひずみ分布(2011年4月10日~2016年1月1日)
図14:東日本地域のひずみ分布(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
>図15:中部・近畿地方のひずみ分布(2011年4月10日~2016年1月1日)
図15:中部・近畿地方のひずみ分布(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
図16:北海道のひずみ分布(2011年4月10日~2016年1月1日)
図16:北海道のひずみ分布(2011年4月10日~2016年1月1日)
 
 
3. 本震後の基線長・面積変化 (基線長・面積変化図の説明)
 
 3-1.本震直後~1ヶ月後
 宮城県と岩手県の発色が多く見られる。また、福島県南部から茨城県北部と千葉県の銚子付近では、大きな面積膨張が見られるのは、面積ひずみの項で述べたとおりである。
 
 3-2.1ヶ月後~2016年1月
 東北全体の発色が多く見られる。また、福島県南部から茨城県北部と千葉県の銚子付近では、面積ひずみの図と同様に大きな面積膨張が見られる。
 
図17:東日本地域の異常基線長・面積変化(2011年3月12日~4月10日)
図17:東日本地域の異常基線長・面積変化(2011年3月12日~4月10日)
図17の凡例
 
>図18:東日本地域の異常基線長・面積変化(2011年4月10日~2016年1月1日)
図18:東日本地域の異常基線長・面積変化(2011年4月10日~2016年1月1日)
図18の凡例
 
 
<開発者のひとりごと>
 
 前号で、地震前兆現象を検出して地震の予知を目指すという国の地震研究政策が、兵庫県南部地震や東北地方太平洋沖地震で挫折して、 起こりそうな大地震の予測を目指すという目標に政策変更したことを記した。
 大地震を起こしている地下深くの地殻上部という場所はどのような場所なのであろうか。現在までの研究で、次のようなことが明らか になってきている。
 大地震は同じ場所で繰り返し発生している。このため、大地震が発生している場所では、過去の地震を引き起こした断層割れ目が、 ほぼ平行して多数存在している。この割れ目では、硬い岩石同士が接しているわけではなく、繰り返した断層運動によって岩石が粘土化 した断層粘土が、この割れ目に挟まっている。そして、粘土を含んだ割れ目には潤沢な水があり、断層や周囲の岩盤は水で飽和している。
 物理学や化学に造詣のある人にはよく知られたことであるが、水があるとさまざまな現象が発生する。地震の前兆現象としては、 井戸が涸れた、逆に井戸から水があふれた、といった地下水に関係した現象が、江戸時代あるいはそれ以前から多く知られている。 また、水は導電性があるので、電磁気的な現象でも多くの事例が知られている。兵庫県南部地震では高速道路を通行していたドライバー などが明石海峡の方向の発光現象を目撃しているし、FM放送に雑音が多く入ったともいわれている。また、最近のGPSの観測研究 から、世界中の多くの大地震の発生前に電離層の電子が異常に多くなっていたことが明らかになってきている。多くの動物などの 生き物は、地中の電磁気的な変化に敏感である。中国や日本国内で、パンダが鳴いたとか、小動物に異常が現れたなどの異常を含めた 多くの宏観異常現象と総称される現象が報告されている。
 現在までに研究者が明らかにしてきた大地震の発生場所においては、水の挙動や粘土などとの相互作用によってさまざまな現象が 発生している可能性を否定できない。このため、上記のような多くの前兆現象は、現在の科学からは説明が難しくても否定できないも のが多く存在している。つまり、特殊な研究に拠らなくても、多くの前兆現象を人々が捉えることができるのである。
 しかし、いま前兆現象が起こっている場所の近くで、どのような大地震の発生が切迫しているのか、という大地震の予測は、 現在の科学でもなかなか難しいのは、すでに記してきたとおりである。
 今日、有料・無料を問わず多くの民間団体が地震の前兆を捉えたことを報告している。しかし、どこにどのような大地震が切迫 しているのかという予測をしているものは、私が知る限り皆無である。日本の内陸部で被害をもたらすようなM6以上の直下型の 大地震は、3.11以降地震活動が活発化している現在でも、年に1度あるかどうかである。一度に20前後の場所を大地震が切迫して いる場所として挙げるのでは、大地震の予測をしているとは言えない。
 本当にお金を払っても知る価値のある地震予知・予測情報とは、今年はここが危ないと年間に1カ所、あるいは来年以降に発生 するものもあるだろうから、多くても2~3カ所を挙げるような情報であろう。
 
 
 
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