JISLaD The Japanese Information System of Land Deformation
GPS地盤変動情報 第5号
2016 / 12 / 27
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 本号では2011年4月11日に発生した福島県浜通り地震(M7.0)による地殻変動について紹介する。この地震は、東北地方太平洋沖地震によって誘発された広義の余震の一つである。しかし、沈み込むプレートに押されて発生する逆断層や横ずれ断層と呼ばれる断層運動で発生する直下型地震が圧倒的に多い日本列島において、この地震は地殻が引っ張られて起こる正断層と呼ばれる断層運動で起こった、きわめて珍しい地震である。
 この地震では、西側から井戸沢断層と湯ノ岳断層というハの字形に並んだ2つの断層が動き、その変動が地上まで表れた。両方とも、断層の西側が東側に対してずれ下がるように、ほとんど横ずれ運動がなく垂直に動いた。
 この地震による地殻変動を、地震前後の下記の2期間のGEONET観測点の座標値を比較することにより、紹介していく。
  ・2011年4月3日から2011年4月9日までの1週間
  ・2011年4月17日から2011年4月23日までの1週間
 
 
1. 本震後の地殻変動 (水平及び上下成分の変位分布図の説明)
 
 図1に地震時のGEONET観測点の水平及び上下変動を示す。矢印の大きさは水平変動の大きさを、方向は水平変動の方向を表す。上下成分については、隆起した場合は赤線の長さで隆起量を、沈降した場合は青線の長さで沈降量を表す。
 地震が始まった場所(震源の位置)を星印で示す。西側の井戸沢断層の南端近くの西側に震源は位置する。どちらの断層も、地下深部に向かって西側に傾いている。地震の始まりは、一般に断層の一番深いところから始まるので、地上に現れている井戸沢断層よりも震源は西側に位置している。
 井戸沢断層の南端近くの西側に、「いわき4」という観測点があり、水平にはほとんど北方に動き、沈降している。沈降しているのは、この断層運動によって、井戸沢断層の西側がずり下がったためである。地震を発生した断層運動は、ほとんど横ずれ変動を伴わない縦ずれの運動だったのに、なぜ横向きの動きが見られるのであろうか。断層面全体が同じ量だけ動いたのであれば、水平変位は見られないはずである。しかし、地震による断層運動において、断層全体が同じ量だけ動くことはあり得ない。必ず、断層の真ん中近くが一番大きく動き、両端に行くほど動く量は小さくなる。この場合でも、井戸沢断層の真ん中の方が南端より多くずれ下がったので、「いわき4」観測点の地上近くでは断層の真ん中の方向に引きずり込まれるような水平変位が生じたと考えられる。
 湯ノ岳断層の南東端近くの東側の「いわき2」観測点は、水平には西北西方向に動いて、少し隆起している。隆起しているのは、断層の東側が、西側に比べるとずり上がったためである。この断層においても、東側では断層の真ん中近くの隆起量が、南東端近くの隆起量より大きいので、「いわき2」観測点の地上近くは、断層と反対側に押し出されて、水平変動が生じている。
 これらの観測点より断層から遠い観測点では、断層運動によって地殻が、おおよそ北東-南西方向に引き延ばされたために、その方向に伸びるような水平変動が見られている。
図1:福島・茨城県境付近の水平上下成分の変位
図1:福島・茨城県境付近の水平上下成分の変位
 
 
2. 地震後の面積ひずみ分布 (面積ひずみ分布図の説明)
 
 地震時に生じた地殻のひずみ分布図を図2に示す。正断層では断層近くの地殻は膨張するため、2つの断層に挟まれた場所に一番大きな膨張ひずみが見られる。ただし、GEONET観測点の分布が、断層の広がりに比べて十分に密とはいえないので、ひずみを求める際に用いた、観測点で囲まれた三角形のとりかたによって、たまたま両方の断層の真ん中南側に膨張の中心が表れている。また、北東-南西方向に伸びる断層運動が起こったので、断層から少し離れた両側が圧縮されて、圧縮ひずみが見られる。
図2:福島・茨城県境付近のひずみ分布
図2:福島・茨城県境付近のひずみ分布
 
3. 本震後の基線長・面積変化 (基線長・面積変化図の説明)
 
 図3に震源域周辺の異常変動図を示す。震源地を中心に基線長変化・面積変化ともに多くが発色している。面積ひずみ分布と同様に断層の間は膨張している。観測点分布が断層の広がりに比べて密ではないので、三角形の区切り方に依存して、たまたま2本の断層のあいだではなく、南側の三角形の方が膨張の大きさが大きくなっている。2本の断層からやや遠い北東側と南西側の2カ所では、断層から押し出された地殻によって圧迫された収縮が見られる。
 
図3:福島・茨城県境付近の異常基線長・面積変化
図3:福島・茨城県境付近の異常基線長・面積変化
図4の凡例
 
 
<開発者のひとりごと>
 
 日本列島では、東から太平洋プレートが、南からフィリピン海プレートが沈み込んでいるために、地震と火山が多く発生している。このなかで、内陸で発生する大地震は多くが、東から沈み込んでいる太平洋プレートによって、日本列島が東西に押されているために起こっている。東日本は全体が東西に押されているし、西日本でも近畿地方の北半分、中国地方と九州の北半分は、東西に押されている。沈み込んでいるフィリピン海プレートは、おおよそ南から日本列島を押しているが、日本列島内陸でその影響を受けているのは、近畿地方の南半分と四国、九州の南半分だけである。
 東日本で起こる大地震はほとんどが、逆断層という断層の片方がもう片方に乗り上げるようにずれる動きで発生している。西日本の北半分では、東日本より押される力が弱いために、断層が水平にずれる横ずれ断層によって大地震が発生している。西日本でいえば、1995年に発生した兵庫県南部地震や、2016年4月の熊本地震、10月の鳥取県中部地震は、すべて横ずれ断層によって発生した大地震である。
 東日本の内陸では、一部の例外を除いて、地盤が東西に圧縮されていると考えられてきた。一部の例外とは、脊梁山脈などに点々とみられる火山地帯で、地殻が圧縮されていると地殻の下にあるマグマが上昇してこられないが、この場所だけは地殻が開くような伸張場になっているために、マグマが地上まで上昇して火山活動がみられると考えられている。しかし、現象としてはそのように理解されるが、東日本全体がぎゅうぎゅうと押されているのは、なぜ火山地帯だけが反対に伸張場になっているのかという、わかりやすい説明はいまもできていない。
 ところが、2011年3月の東日本大地震では、東日本全体が東側に動いたために、地盤を東西に押す力がかなり弱まったと考えられている。このために、斜めの断層の上側がずれ落ちるように動いて東西方向の伸びが生じる、正断層と呼ばれる断層運動で発生した大地震が、2011年4月に発生した福島県浜通り地震である。実際、東日本大地震の発生後、東日本の太平洋側の沿岸にかけて点々と、大地震ではないが、地殻が伸びるような正断層による小規模~中規模の地震が発生している。また、2016年11月に発生した福島県沖の地震も正断層の地震で、福島県浜通り地震を起こした伸張場が、その北東のかなりの沖合まで伸びていることに、多くの専門家が驚いた。
 地震の研究者は、東日本大地震が発生するまで、福島県浜通り地震のような正断層の地震が発生することは、わからなかったのであろうか。地震の研究者には、地盤に働く力や地震動などを物理学的に理解して地震現象を明らかにしようとする地球物理学の研究者(狭い意味の地震学は地球物理学の一部である)と、地層や地形から地震現象を明らかにしようとする地質学・地形学の研究者(地震地質学や変動地形学といわれる分野)とがいる。福島県浜通り地震を起こした井戸沢断層と湯ノ岳断層は、2011年より前からよく知られていた活断層で、地震地質学の研究から、正断層の活断層であることもわかっていた。しかし、この正断層型の活断層が、近い将来に正断層の大地震を発生すると考える地球物理学の研究者は、非常に少なかった。
 2011年より前から、東日本の太平洋側の津波堆積物から、従来考えられていなかった大きな津波を発生する地震が、東北地方で繰り返して発生していることを明らかにしていたのも、地質学の研究者である。このような大津波の研究や、なぜ福島県の海岸近くに正断層型の活断層が存在しているのかといったことを、突き詰めて考えていれば、東日本大地震のような巨大地震が、狭い意味の地震学者にとって全くの想定外とはならなかったはずである。
 
 
 
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